私が子どもの頃に感動した出来事の中で今でも鮮明に覚えているのがセミの羽化の観察です。茶色い幼虫の背中が割れ、真っ白な体が出てきて青白い羽根が伸びていく様子は何とも言えない神秘的な光景です。夏になれば夜の公園で比較的簡単に見ることのできる光景ですが、実は見たことがない人も多いのではないでしょうか。そんな神秘の光景をぜひお子さんと一緒に体験してもらいたいと思い、今回は採集から観察までの方法をまとめてみました。
セミの生態
私の住む千葉県東葛エリアでは何種類かのセミが生息していますが、ここでは最もポピュラーなアブラゼミについてご紹介していきます。
アブラゼミは日本全国の広い範囲に生息しています。体長は約60mmでセミの中では中型の部類です。見た目の特徴は頭から背中にかけては黒く、胴体部分は白が混じり、羽根は全体が茶色いまだら模様になっています。実はほとんどのセミの羽根は透明色をしており、羽根全体が不透明色のセミは世界中でも珍しいということです。
成虫は7月~9月頃が最盛期で、あの「ジリジリジリ…」という鳴き声が夏の暑さをさらに助長します(笑)。ちなみに鳴いているのはオスです。
成虫は木の中に産卵しますが、卵のまま冬を越し、翌年の6月頃になるとふ化した幼虫が地面に落ちて、そこから土の中に潜って生活を始めます。幼虫は木の根っこから養分を吸いながら3~4年かけて成長し、成虫になるために地上に出てきて羽化をします。セミが成虫でいる時期はこれまで1~2週間程度と言われていましたが、2019年に広島県の高校生が調査した結果では1か月以上生きていたという記録もあります。
セミの羽化について
土の中で3~4年もの長い年月を過ごした幼虫は、7月頃に地上に出てきて羽化する場所を探します。羽化は木を登って高いところで行われることが多いですが、低い場所で羽化する個体もいます。
幼虫は18時頃に地上に姿を現し始めて、18時~19時頃に羽化を始めます。羽化の最中に鳥などの外敵に狙われるのを避けるため、暗い時間帯に羽化を行っているのです。
羽化の場所が決まったら、幼虫がジッと動かなくなり羽化が始まります。完全に羽化が終わるまでには4時間ぐらいかかります。
実際の羽化の様子はこの後の観察方法のパートで紹介していきます。
幼虫の採集方法
セミの幼虫はとても身近な場所にたくさんいて、一番探しやすいのは公園です。わざわざ遠くまでに捕まえに行く必要はありません。まずは一番近い公園に探しに行ってみましょう。
下調べ
採集は日が落ちかけた時間帯に行いますので、まずは日中の明るい時間帯にターゲットとなる公園をリサーチしておきます。チェックポイントは以下の3点です。
◆チェックポイント1:セミ(成虫)がいること
鳴き声が聞こえたり、木にとまっているセミの姿が確認できればそれでOKです。セミがいるということはそこが生活の拠点であり、産卵も行われているということになります。
◆チェックポイント2:セミの抜け殻があること
抜け殻があるということは実際に羽化が行われた何よりの証拠です。その場所には間違いなくセミの幼虫がいます。
◆チェックポイント3:地面にセミの幼虫が出てきた穴があること
セミの幼虫が出てきた穴は直径1.5cm~2cm程度の大きさです。木の根元付近にボコボコ穴が空いているということは、最近幼虫が穴から出てきて羽化した証拠です。沢山の穴を見つけることができたら、そこの場所ではかなりの確率で幼虫を見つけることができるでしょう。
いざ採集へ
あたりが暗くなり始める少し前の18時頃になったら、土の中から出てきた幼虫探しに行ってみましょう。
採集に適しているのは天気の良い日です。セミの幼虫は土の中で気象条件を確認していると言われており、雨が降っていると羽根が乾きづらかったり、風の強い日は飛ばされて落下してしまう可能性がありますので、そういったことを考えて地上に出てきているようです。
採集に必要な道具は、懐中電灯と持ち帰るための容器だけです。容器はプリンやアイスの容器などで十分です。複数持ち帰ることを考えている場合は1匹ずつ分けて持ち帰るための容器を準備しましょう。あとは採集に行く前に虫よけスプレーをしてから行った方がいいでしょう。
現地に着いたらまず地面を歩いている幼虫がいないかを探します。セミの抜け殻が付いている木の周りを中心に隈なく探していきましょう。その後は木の幹を下の方からチェックしていきます。木の高いところで幼虫を見つけた場合は無理に網などで捕まえようとせず、そっと羽化の成功を祈ってあげましょう。また、手の届くところで幼虫を見つけた場合でも、ジッとして動かない個体はすでに羽化の準備に入っている可能性がありますので、そのままそっとしておいてあげましょう。
幼虫を見つけることができたら、優しくそっと背中をつかんで捕獲します。これまで抜け殻しか触ったことがないと、本物の幼虫はずっしりと重く、ちょっと感動すると思います。
捕まえた幼虫は、落ちている小枝や葉っぱを敷いた容器の上に優しく置いてあげます。掴まるところがないとひっくり返って弱ってしまいますので、必ず何か掴まれるものを一緒に入れてあげてください。複数の幼虫を持ち帰る場合は必ず1匹ずつ容器に入れるようにしてください。複数の個体を一緒に入れて持ち帰ると、お互いが掴み合って傷つけてしまう可能性があり、傷ついてしまうことで羽化の失敗に繋がってしまいます。
観察方法
家に持ち帰ってきたら、早速羽化の準備をしていきましょう。
羽化の準備といっても特に難しいことはありません。部屋の中で観察したい場合は、カーテンの下の方につかまらせてください。家の外で羽化させる場合は、網戸に付けるか、庭に木があればそこに付けてあげてもよいです。ただしあまり高い木だと見えないところまで登ってしまったり、葉が生い茂っている木だと観察しづらいこともありますのでご注意ください。また、幼虫を目線より高い位置につかまらせてしまうと高く登って観察しづらくなってしまう可能性がありますので、最初は下の方に付けてあげるとよいでしょう。
部屋で羽化をさせる場合のポイントは、部屋を暗くしてあげることです。私の経験上、部屋を暗くしておいた方が羽化が早く始まると思います。部屋が明るい状態だとなかなか羽化の場所が決まらず、カーテンの上まで登ったりウロウロ動き回りますが、暗くしておくと下の方で羽化することが多いです。きっと明るいと落ち着かないのでしょうね。
安定した足場を見つけた幼虫はジッとして動かなくなります。これが羽化の始まるサインです。
しばらくすると背中にタテに割れ目が入り、白い体がだんだんと出てきます。
そのまま上の方に8割ぐらい体が出てくると、今度は背中を反らせて下向きになります。初めて見ると落ちてしまうのではないかとビックリすると思いますが問題ありません。
しばらくはその体勢をキープしていますが、準備が整うと腹筋を使って起き上がり、殻を掴みます。その後、殻に残っていたお尻の部分を抜いてまっすぐになります。この時点では羽根は小さく丸まった状態です。
ここからだんだん羽根が伸びてきます。この時の羽根が何と美しいことか。数えきれないほどセミの羽化を観察してきていますが、何度見てもその美しさにうっとり見入ってしまいます。
そして羽根が伸びきったら、段々と色づいていきて、アブラゼミらしい姿になってきます。ここまでで大体2時間ぐらいです。この後は羽根がどんどん色づいていくだけですので、観察はここで終了してよいと思います。
翌朝になると、すっかり成虫の姿になっています。すでにはばたく準備ができていますので、もしかしたらどこかに飛んでいってしまっているかもしれません。部屋で羽化をさせた場合は、飛んでしまったセミを探すのに苦労することもありますので、その点は十分ご注意ください(笑)。
観察時の注意点
セミの羽化を観察する際の注意点は、羽化の途中で絶対にセミに触らないことです。途中、さかさまになって落ちそうな格好になる時があって心配になるかもしれませんが、それでも絶対に触ってはいけません。羽化の途中はとても体がもろい状態で、人が触ることによって羽化が失敗してしまうケースがあります。自然界では人が助けてくれることはありません。それでもかなりの確率で彼らは立派な成虫になります。私も数えきれないほど自宅で羽化を観察してきましたが、90%以上は成功しています。彼らの生命力を信じて温かく見守ってあげてください。
まとめ
今回はセミの羽化を自宅で観察する方法についてご紹介いたしました。生命の不思議である羽化という劇的な変化の瞬間に立ち会って、あの神秘的な光景をお子さんとともに楽しんでみてください!
実際のセミの羽化観察の記録はこちらをご覧ください。